ストックホルム世界水週間2026(8月23~27日) NoWNET セッション「包括的な流域パートナーシップ:地域を越えて水の安全保障を変革する」Inclusive Basin Partnerships: Transforming Water Security Across Regions 8月26日 (ハイブリッド形式)開催報告

共催機関(セッション開催費出資機関)

1 セッション概要

水の安全保障、気候レジリエンス、そして健全な生態系を実現するためには、上流と下流の利害をつなぎ、分野横断的に政策の整合を図り、多様なステークホルダーを協調した行動に巻き込む、統合的な流域管理と水の共同管理(collective water stewardship)が不可欠である。こうしたパートナーシップに基づくアプローチは、NoWNET(Northern Water Network)の活動の中核でもある。NoWNETは、地域を越えた知識共有、多様なステークホルダー間の協働、南北協力、そして地域横断的な共同アクションを促進している。

ストックホルム世界水週間2026のテーマ 「Water for People and Progress(水を通じた人々の暮らしと発展)」のもと、本セッションでは、アフリカ、アジア、欧州から紹介された7つの事例をもとに、多様なステークホルダーによるパートナーシップ、科学的根拠に基づく意思決定、革新的な資金調達、デジタル技術、包摂的なガバナンスが、流域規模の課題解決をどのように前進させ得るかを検討した。

7つの事例発表を踏まえたパネルディスカッションでは、多様な地域・社会的背景において、流域パートナーシップを成功させ、持続させ、地域主体の取組として定着させるための要件について議論した。また、成功事例から何を学び、各地域の状況に応じてどのように適応・展開し、さらにスケールアップできるか、そして共通する課題を協働による解決策へと転換するために、パートナーシップをいかに強化すべきかについても検討した。

全体として本セッションは、個別の事例紹介にとどまらず、包摂的なパートナーシップを強化・拡大し、持続的な流域レベルの行動につなげるための共通原則、実現条件、実践的なアプローチを明らかにすることを目指した。

2 事例発表から得られた主な教訓

アジア事例

主な教訓

SUMERNET・MTT(メコン地域)

ストックホルム環境研究所アジア支部(SEI Asia)
Chayanis Krittasudthacheewa

知識を共同アクションにつなげるには、信頼に基づく長期的なネットワークと継続的な対話が重要。 単発のプロジェクトや知識移転ではなく、共同創出・相互学習・継続的な関係構築を通じて、国境を越えた協働を促進する。

熊本の地下水保全・スチュワードシップ

サントリーホールディングス瀬田玄道氏

地域の取組をスケールアップするには、産官学金・地域の協働に加え、標準化・データ・金融インセンティブが重要。 熊本の経験をそのまま移植するのではなく、各地域の状況に合わせて適応できる「生きたモデル」として展開する。流域の協働が実証で終わるのは、資金が尽きるからではなく、需要が生まれないからである。

標準を義務に変えて需要を生み出せるのは公的部門だけであり、だからこそ民間が標準とエビデンスを整え、行政に持ち込む必要がある。

東近江市愛知川流域事例

八千代エンジニヤリング

吉田広人氏

流域を「生態系管理」だけでなく「投資と共同アクション」の単位として捉えることが重要。 地域の知識・価値、科学、政策、資金をつなぎ、長期的な資金メカニズムとMRVを組み合わせることで、地域の取組を長期的に持続可能なものにする。

 

欧州の事例

主な教訓

若者の参画(フランス・越境流域)

フランスユース水議会French Youth Parliament for Water副代表Guillaume Février氏

若者の参加を意見聴取にとどめず、意思決定への実質的・継続的な参画へ発展させることが重要。 投票権などの制度的な参加機会と、河川再生・市民科学などの実践的な活動参加を組み合わせることで、信頼、正統性、長期的なコミットメントを強化できる。

フランスの河川流域のガバナンス機関に若者を参画させる取組は、若者が国内および越境的な水ガバナンスに実質的に貢献するための、他地域でも応用可能な事例を示している。

ドナウ川流域事例
世界水パートナーシップ機関本部(GWPO)
Gergana Majercakova氏

市民参加が持続的な価値を生むためには、地域の知識をエビデンスとして活用し、意思決定につなげる仕組みが必要。 地域でのイノベーションを試行し、流域計画・政策・投資・実施につなぎ、ネットワークを通じてスケールアップすることが重要。

 

アフリカの事例

主な教訓

エチオピア:水価格改革

Woord & Daad
Jacob Jan Vreugdenhi氏

プロジェクトからシステム変革へ移行するには、制度的オーナーシップ、効果的な実施、実質的な参加、信頼に基づく継続的な協働が不可欠。 政策やパイロットの成果だけでは不十分であり、データ共有・制度間連携・ステークホルダーの意思決定への影響力を確保する必要がある。

ナイル川流域:デジタル・ソリューション

ナイル川流域イニシアティブ(NBI)副事務局長のAbraha Adugno博士

デジタル技術を流域ガバナンスの変革につなげるには、技術導入だけでなく、データ基盤、制度、人材、パートナーシップへの継続的な投資が必要。 個別のパイロットから統合されたシステムへ移行するためには、データの相互運用性、国・分野横断的な連携、制度的能力の強化が重要である。

 

3.パネルディスカッション:水ガバナンスと地域主体性

パネルディスカッションでは、アジア、欧州、アフリカ等の事例を踏まえ、持続可能な流域ガバナンスを実現するための地域主体性(local ownership)と協働の条件について議論した。議論を通じて、水ガバナンスには地域を越えて共有できる基本原則がある一方、制度・社会・経済的背景に応じた柔軟な適応が必要であることが確認された。

主要な成果・教訓

1.地域主体性を取組の初期段階から形成すること

地域主体性は、プロジェクト終了時に「移管」するものではなく、課題の特定、優先順位付け、計画、実施、改善の全段階に地域の主体を関与させることで形成される。農家や地域コミュニティなど草の根レベルの当事者意識を基盤とし、地域が課題・解決策・プロセスを自らのものとして捉えることが、取組の持続性を高める。さらに、若者や市民社会組織(CSO)を含む多様な主体に対して、単なる意見聴取ではなく、実質的な役割と意思決定への参加機会を確保することが、取組の正統性と持続性を高める。

2.信頼と長期的な関係、ネットワークを協働の基盤とすること

流域では、上流・下流、国境、分野を越えて利害が交錯するため、責任追及ではなく対話、相互理解、信頼に基づく関係構築が不可欠である。プロジェクト単位の関係から長期的なネットワークへ移行し、知識の共有から共同創出、研修から相互学習へと発展させることが、継続的な協働と地域間の学習を支える。

3.科学・データ・地域知を共同創出し、意思決定につなげること

科学的データ、地域の知識・経験、市民科学等を組み合わせ、共通の理解を形成できるエビデンスを共同で創出することが重要である。そのためには、国境・分野を越えたデータ共有、相互運用性、標準化、モニタリング・報告・検証(MRV)等の基盤を整えるととともに、得られた知見を政策、計画、投資、実施につなぐ明確な経路を構築する必要がある。

4.制度・組織による「enabling environment」を整えること

協働を個別プロジェクトにとどめないためには、流域機関、地域ネットワーク、CSO等を含む、長期的な協働を可能にする制度・組織的環境が必要である。特に、政策改革を実施体制や組織間調整、データ共有等と結び付けるとともに、政府が多様な取組をつなぎ、重複を避けながら全体を調整するオーケストレーション機能を果たすことが重要である。

5.成功事例をコピーするのではなく、地域の文脈に応じて適応・展開すること

他地域の成功事例をそのまま「コピー&ペースト」することはできないが、信頼構築、多様な主体の参加、知識共有、科学と政策の接続等の共通原則を各地域の上限に応じて適応させ、実践と学習を繰り返すことが重要である。国際的なネットワークや交流を通じた相互学習に加え、地域で蓄積したエビデンスを政策、制度、投資、実施につなげることで、ローカルな実践をスケールアップできる。

6.需要を生み出し、持続的な資金循環につなげる制度・市場を構築すること

取組をプロジェクトで終わらせないためには、外部資金だけに依存せず、水や生態系サービス等の価値を可視化・定量化し、政策や市場を通じて継続的な需要と資金を生み出す仕組みが必要である。クレジット、民間投資、官民連携、共同資金、資金提供者とのマッチングや案件の集約・投資可能化等を組み合わせるとともに、需要を生み出す公的な制度・規制やインセンティブを整えることが重要である。

総括

本パネルでは、持続可能な流域ガバナンスは、単一の制度や技術によって実現するものではなく、地域主体性を起点に、多様な主体、知識、制度、ネットワーク、資金をつなぎ、継続的な協働と学習を生み出すことで形成されるとの認識が共有された。そのためには、地域で生まれた実践を、信頼とネットワーク、知識とエビデンス、制度と政策、そして持続的な資金・市場へとつなぐ「触媒」の仕組みが重要である。こうした仕組みにより、地域の実践を各地域の文脈に応じて適応・展開し、個別プロジェクトの成果を流域レベル、さらには国内外のシステム変革へと発展させることが可能となる

各スピーカーの詳細発表はこちら

プログラム

 

NoWNET及びセッション概要の紹介
朝山由美子 日本水フォーラム NoWNET事務局 チーフマネージャー

事例発表

アジアの事例

1)知識から集団的行動へ:水ガバナンスのための信頼される地域ネットワーク
― 持続可能なメコン研究ネットワーク(SUMERNET)およびメコン・ソート・リーダーシップ・アンド・シンクタンク・ネットワーク(MTT)からの教訓
Chayanis Krittasudthacheewa, SEI Asia Partnership and Engagement for Impact Director

2)一つの流域から複数の流域へ:熊本を超えて包摂的な水のスチュワードシップを拡大する
瀬田玄通サントリーホールディングス株式会社サステナビリティ経営推進本部 シニアジェネラルマネージャー/Climate & Nature Lead

3)愛知川の源流から琵琶湖へ:流域を「生命」と「金融」の両方の単位として捉える
吉田広人 八千代エンジニヤリング株式会社 サステナビリティサービス事業部 副事業部長

欧州の事例

4)越境水ガバナンスにおける体系的な若者の参画
Guillaume Févrierフランス青年水議会(FYPW)国際委員会 副委員長

5)健全なドナウ川のための市民科学とイノベーション
Gergana Majercakova 世界水パートナーシップ本部、知識・イノベーション・能力開発部門 グローバル・ヘッド

アフリカの事例

6)持続可能で包摂的な成長のための水料金制度
― エチオピア・アワシュ川流域の事例
Jacob Jan Vreugdenhil、Woord & Daad Chief Program Officer

7)越境水管理と気候レジリエンスのためのデジタル・ソリューション
― ナイル川流域イニシアティブ(NBI)から得られた、他地域への応用可能な教訓と実践的提言
Louise Heegaard DHI 国際開発部門 パートナーシップ・資金動員専門家
Dr. Abraha Adugna ナイル川流域イニシアティブ(NBI) 副事務局長/流域全体プログラム責任者

パネルディスカッション

モデレーター:Rick Elmendorpオランダ水パートナーシップ ディレクター兼議長
パネリスト
 Nhan Vo Tran Trung SEI Asia プログラムマネージャー
 他は、上記発表者と同様

会場からの質疑応答(Q&A)およびインタラクティブ・ディスカッション
セッションのまとめ

報告者:チーフマネージャー 朝山由美子

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