国連地下水サミット:アジア太平洋地域の地下水管理に関するサイドイベントの開催

2022年12月7-8日に、フランス・パリにあるユネスコ本部において、国連地下水サミットが開催されました。国連が地下水について初めて焦点を当てた国際会議で、ユネスコと国際地下水資源アセスメントセンター(International Groundwater Resources Assessment Centre (IGRAC)が共催しました。本会合に先立ち、ユネスコ本部で国連地下水サミットのサイドイベントが12月6日に開催されました。筆者は、アジア太平洋地域の地下水管理に関するサイドイベントを主催しました。以下にセッション開催結果、及び、国連地下水サミット本会合の開催結果概要を紹介します。

1. アジア太平洋地域の地下水管理に関するサイドイベントの開催

アジア太平洋地域の各地域は、それぞれ異なる地下水管理課題に直面しています。そこで、筆者が主催した 「アジア・太平洋地域における持続可能で、気候に対して強靭な地下水管理:見えないものを可視化する」と題したサイドイベントでは、「見えない」地下水を「見えるもの」にするためのアジア・太平洋各地サブ地域の特徴と課題、及びその解決策を紹介し、聴講者を交えた議論を行いました。各スピーカーは、地域事例から得られた経験、グッドプラクティス、教訓を共有し、アジア・太平洋において、地下水はそれぞれの実情に合わせて対処していかなければならないことを実証しました。また、この多様性を反映し、地域内の異なる状況に応じて開発・適用されたアプローチを紹介しました。本セッションのモデレーターは、筆者、及び、ユネスコ自然科学局生態地球科学部長のHans Thulstrup氏が務めました。

本サイドイベントの主要メッセージとして、次のことを強調しました。

  • 地下水システムと気候に関する理解を深め、地下水の真の価値を認識することにより、ガバナンス、管理、社会的・経済的成果の改善につながる。
    • 地下水システムの理解、評価、管理を向上させるための水データ及び情報の収集、保存、共有のための継続的な科学的取り組みの支援と投資の重要・必要性。
    • 地球規模の変化に適応し、地下水の管理問題に取り組むことで持続可能な開発目標6(SDG6)を達成するためには、制度と能力の構築、地下水資源管理に寄与する生態系の維持・強化、地域の強みを活かす教育への投資が不可欠。
    • 「見えないものを見えるようにする」に向けて、地域のデータをオープンにし、産官学で共有し、さらにその成果を水利組合に移転することの重要性・必要性。
    • 新しい世代の水の専門家への教育と能力開発への投資の必要性。

各スピーカーの議論内容
太平洋島嶼国及びオーストラリアの事例を、オーストラリア国立大学水資源に関する名誉教授のIan White教授に発表して頂きました。Whilte教授は、環礁のトケラウ等において、地下水資源を特定するために地中レーダーを使用したことが、より良い水管理政策の選択肢につながったこと、また、エルニーニョ現象による影響が著しい太平洋島嶼国の国々において、地下水と気候に関する理解が深まり、水の価値が認識され、ガバナンスと資源管理の改善につながったことを共有しました。さらに、地震を含む太平洋地域で最近発生した自然災害による影響結果を踏まえ、災害対応システムが適切に整備されていれば、地下水システムが回復力(レジリエンス)を持つことを示しました。

日本、及び熊本の事例を、熊本大学大学院先端科学研究部(理学系)細野高啓教授に発表して頂きました。細野教授は、まず、前世紀に日本が経験した地下水の過剰汲み上げによる環境問題として、地盤沈下と水位回復時の地下構造物のダメージについて紹介しました。次に、現在の環境問題である地下水の硝酸塩窒素による地下水汚染問題について紹介しました。最後に、目に見えない水や物質の動態を地域スケールで可視化し、長期的な水資源管理に役立てるための流域シミュレーションモデルの活用を提案しました。

東南アジアの事例として、タイ政府地下水資源局(DGR)副ディレクターのDr. Surin Worakijthamrongに、タイにおける地下水管理について発表して頂きました。Worakijthamrong氏は、気候変動への対応、及び、タイにおける今日の水需要に応えるため、小規模な地下水供給プロジェクトから、配水システムの拡張を含む大規模なプロジェクトへと移行しながら、地下水管理事業を実施していることを共有しました。また、人々が日常生活における水消費と農業のために十分な水を確保し、生活の質を向上させるために、帯水層貯蔵・回収法(ASR)を開発し、地下水管理に取り組んでいることを紹介しました。Worakijthamrong氏は、DGRは、地下水をより可視化し、地下水管理計画が持続可能な方向へ進むよう、常に各地域に適した新しい技術、革新、哲学を追求していることを強調しました。

中央アジアの事例として、Kazakh-German大学、及び、中央アジアの水資源管理に関するユネスコ議長を務めているBarbara Janusz-Pawletta氏、プロジェクトスペシャリストの Ekaterina Gorshkova 氏、Ahmedsafin Institute of Hydrogeology and Geoecologyの Abai Jabassov氏が、カザフスタンの地下水管理事例として、次のことを強調しました。 カザフスタンには大きな潜在的発電能力があるが、フルパワーで使用されていない。これは、水資源管理(越境レベルを含む)と水資源に関する制度的メカニズムを改善することによって、状況を変えることが可能となる。特にユネスコにより、中央アジアのためのGGRETAプログラムの経験から得られた示唆は改善にとても有効である。 水の安全保障とその持続可能な利用を確保するために、中央アジアにおける地下水管理に関する科学的研究、モニタリング、評価、予測をより多く行う必要がある。将来の管理者である若者を様々なレベルの意思決定や継続的な活動に参加させ、地下水管理に関する教育プログラムをより多く提供する必要がある。

2. 国連地下水サミット本会合

12月7-8日に開催された本会合では、1日目に、SDG 6グローバル・アクセラレーション・フレームワーク(Global Acceleration Framework)に添い、(1)データと情報、(2)キャパシティ ディベロップメント、(3)ガバナンス、(4)ファイナンスに関するセッション、及び、(5)第10回世界水フォーラムを紹介する特別セッション、が開催されました。 

2日目に、(1)地域対話、(2)越境流域、(3)アフリカ、(4)科学―政策-実践に関するセッション、及び(5)地下水ユースフォーラム、が開催されました。 

閉会式では、まず、サイドイベント・本会合のハイライト動画が共有され、UN-Water が、共同メッセージと地下水に関するアクション要求を発信しました。
https://groundwater-summit.org/wp-content/uploads/2022/12/UN-Water-Joint-message-on-GW.pdf

続いて、世界各国の閣僚級がそれぞれ地下水管理に関するステートメントを述べました。 また、第9回世界水フォーラムをホストしたセネガル政府から、第10回世界水フォーラムをホストするインドネシア政府に、地下水に関する議論のバトンを受け渡すセレモニーが開催されました。 

国連地下水サミット本会合の動画、及び写真は次のURLよりご覧いただけます。
https://groundwater-summit.org/recordings/
(アジア・太平洋地域の地下水管理に関するサイドイベント動画は、Room VIII)

(報告者:チーフ・マネージャー 朝山由美子)

お使いのブラウザーはこのサイトの表示に対応していません。
より安全な最新のブラウザーをご利用ください。