第11回APWFウェビナー開催結果概要報告

 アジア太平洋地域では、持続可能な地下水管理に向けた行動を加速化させていくことが急務です。アジア開発銀行(ADB)の「アジア太平洋水資源開発展望(AWDO)2020」によると、ADB加盟国のうち20カ国が地下水資源の持続可能性について最悪の評価を受けています。集中的な経済活動と爆発的な人口増加によって地下水が急速に枯渇し、水の利用可能性、水質、生物多様性が悪化し、自然災害に対する強靭性が弱まっています。また、地下水へのアクセスに不公平が生じ、人々の健康や福祉にも悪影響を及んでいます。これらの問題を解決するためには、複雑でダイナミックな社会・水課題を規模に応じて検討し、地下水流動解析ツールを含む、利用可能な最善の科学技術を活用して、規制・経済的手段を策定し、セクター間の調整を行いつつ、実施する必要があります。

 6月30日(水)に開催した第11回APWFウェビナーでは、国際水管理研究所(IWMI)ニューデリーのアディディティ・ムカルジー主任研究員、及び、Arghyamのアムリタ・カストゥリランガン上級マネージャーをスピーカーに迎え、「地下水・見えないものを可視化する」と題し。アジア太平洋地域における持続可能で包摂的、かつ強靭な地下水管理への道筋を議論しました。とりわけ、インドは世界最大の地下水利用国であることから、主にインドの国家政策とコミュニティレベルでの実践を取り上げました。

 IWMIのムカルジー主任研究員は、1970年代から今日までの地下水流脈の数、地下灌漑用水使用量、及び、農業分野の電力消費量の変化に関するデータを分析し、インドにおける地下水の枯渇は、水・エネルギー・食料政策に起因しており、持続不可能な水・エネルギーの使用傾向によって農業の成長が支えられていることを指摘しました。課題に対処していくためには、水・エネルギー、食料ネクサスの観点から、地下水を適切に管理していくことが必要であり、持続可能な地下水管理に取り組むことで、気候変動に対しても強靭な農業に寄与できることを強調しました。また、地下水採取の際のポンプの動力は、東インドと他の地域では異なっており、各地域の状況に応じた政策を策定する必要があることについても言及しました。

 Arghyamの カストゥリランガン上級マネージャーは、インドのコミュニティによる参加型地下水管理への取り組みを紹介しました。Arghyamは、生態系を保全しつつ、2023年までに、1億人の水の安全保障を確保することを目標に掲げています。目標の達成に向けて、Arghyamは、各村落コミュニティにおいて、持続可能な地下水管理を行っていくための能力開発トレーニングを行っています。Arghyamのオンライントレーニングプログラムは毎週開催され、専門家に加え、他の村落コミュニティの仲間からも学び合い、意見交換を行うことができます。また、スマートフォンからも、コンテンツにアクセスし、持続可能な地下水管理の手法を学ぶことができます。さらに、ダッシュボードを通じて、他の村落コミュニティが行っている地下水管理の取り組みやその進捗状況も知ることができます。その結果、多くの女性が持続可能な地下水管理のトレーニングに参加することができるようになり、各コミュニティが、地下水管理に「取り組む」から、地下水管理が「できる」に移行できるようになったことを共有しました。

 パネルディスカッションでは、インド政府、及び、コミュニティの実践的な事例の比較を通じて、アジア太平洋地域のリーダーが再考すべき地下水管理モデルについての新たな洞察について議論を行いました。

 本ウェビナーには、日本やインド、ネパール、バングラデッシュ、フィリピン等、324名の参加があり、インドの地下水管理に関する関心の高さを伺うことができました。

発表資料・動画
https://apwf.org/11th-apwf-webinar-groundwater-making-the-invisible-visible/

(報告者:マネージャー 朝山由美子) 

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